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東京都建築審査会の記録
審査請求人の反論(2)
@東京都に対する反論-2
(1)審査請求期間について
反論書(1)の@の通り。
(2)建築基準法第55条第2項の規定に基づく認定処分における判断の誤りについて
東京都は建築基準法第55条第2項の規定に基づく認定処分について審査請求人らが反論書(1)で提起した疑義に弁明書(2)で答えていないので、審査請求人らは具体的な問題を提起する。
地盤面に関しては建築基準法施行令第2条第2項で「地盤面とは建築物が周囲の地面と接する位置の平均の高さにおける水平面」と規定されているが、本件計画建築物の低層棟の東南側のドライエリアは、ドライエリアの外壁の外側が地面と接する位置を「周囲の地面と接する位置」として地盤面を算定している。このことは本件建築主がドライエリアの外壁を建築物とみなしていることを意味している。ところで、建築基準法第55条第2項による高さ制限緩和の際に適用される東京都の「第一種低層住居専用地域又は第二種住居専用地域内における建築物の高さの制限の緩和認定基準」の「3 外壁の後退距離の制限」では「建築物(認定に係る建築物の敷地内のすべての建築物)の外壁又はこれに代わる柱の面から敷地境界線までの距離は4m以上とする」と規定されている。そうすると、建築物であるドライエリア外壁から敷地境界線までの距離が4m未満の場合は認定基準を満たしていないことになる。配置図を見る限り、ドライエリア外壁から東南側の隣地境界線との距離は2m未満であるため、本件計画は認定基準を満たしていないので、同法同条第2項による高さ制限緩和は適用されず、同法同条第1項に違反している。よって東京都の認定処分には判断の誤りがあるので、東京都による建築基準法第55条第2項の規定に基づく認定処分は取り消されなければならない。
なお、建築基準法第2条第1号で「建築物」とは、「土地に定着する工作物のうち、屋根及び柱若しくは壁を有するもの(これに類する構造のものを含む。)、これに附属する門若しくは塀、観覧のための工作物又 は地下若しくは高架の工作物内に設ける事務所、店舗、興行場、倉庫その他これらに類する施設(鉄道及び軌道の線路敷地内の運転保安に関する施設並びに跨線 橋、プラットホームの上家、貯蔵槽その他これらに類する施設を除く。)をいい、建築設備を含むものとする」と定義されている。ところが、ドライエリアは「壁」を持つが、「屋根」を持たない。それでも「建築物」とみなされているのは、建築物と構造的・機能的に一体の関係にある部分も建築物となるとの解釈に基づいているからである。このようにドライエリアは、建築物本体と一体の関係にある構造物とみなされているので、建築物本体の「壁」の延長と考えることができる。従って、「建築物(認定に係る建築物の敷地内のすべての建築物)の外壁」にはドライエリアの外壁も含まれるべきである。また、反論書(1)のAの(1)の通り、本計画の場合は、絶対高さ制限を10mから12mに緩和する際に、近隣住民への理解を得るべく十分な説明が行われておらず、国民の健康の保護や公共の福祉の増進に十分な配慮が払われたとは考えられない。
(3)建築基準法第86条第1項の規定に基づく認定処分における判断の誤りについて
東京都は建築基準法第86条第1項の規定に基づく認定処分について審査請求人らが反論書(1)で提起した疑義に弁明書(2)で答えていないので、審査請求人らは具体的な問題を提起する。
東京都の「建築基準法第86条第1項、同条第2項及び第86条の2第1項の規定に基づく認定基準」の「II. 取扱基準」の「第2 適用基準」の「3 接道条件」の「(1)接道」の「イ 区域面積が3,000平方メートル以上の場合」では、「区域はその外周のおおむね4分の1以上を幅員6メートル以上の道路(幅員6メートル未満の道路に接する敷地の部分を道路状とし、当該幅と道路幅員の合計が6メートル以上となるものを含む。)に接すること」と規定されている。また、同(2)では「(1)の規定は,道路により区分された区域の部分ごとに適用する」と規定されている。本件計画には区域Iと区域IIがあり,区域別敷地面積はそれぞれ3,073.92平方メートルと4,451.01平方メートルであるから、両区域とも「イ」の場合に該当する。区域Iに接する目白通り(幅員18m)の接道の長さは約72mであり、区域IIに接する目白坂(幅員4m未満の2項道路)の接道の長さは、道路状整備部分(幅員2m以上)を含めて約30mである。(2)の規定を適用すると、区域Iは目白通りに接道しているので、区域Iの外周の4分の1は約72m以下でなければならず、区域IIは目白坂に接道しているので、区域IIの外周の4分の1は約30m以下でなければならない。しかし、区域Iの外周は約292mであり、その4分の1は約73mであるので、区域Iはその外周の4分の1以上を目白通りに接していないことになる。また、区域IIの外周は約390mであり、その4分の1は約97.5mであるので、区域IIはその外周の4分の1以上を目白坂に接していないことになる。従って、事業主による認定申請は認定基準を満たしておらず、東京都による認定処分には判断の誤りがあるので、認定処分は取り消されなければならない。
次に、新たに認定申請が行われたと仮定し、区域Iと区域IIの区分をやめ、1つの区域とされた場合を検討してみよう。その場合、本件開発区域全体の外周は約407mであり、その4分の1は約101.5mである。一方、目白通りと目白坂の接道の長さの合計は約102mであるから、本件開発区域全体の外周の4分の1以上という接道条件をクリアできる。
しかし、この場合は開発区域の取り方が問題にならざるを得ない。実は、本件開発区域の南東側には事業主の所有地であるにもかかわらず開発区域外の土地がある。その土地の外周を含めると、事業主の所有地全体の外周は約426mであり、その4分の1は約106.5mであるから、接道の長さの合計(102m)は接道条件をクリアできなくなる。それが理由でその土地が開発区域から除外されたという証拠はないが、その土地を開発区域に加えれば、一団地認定の障害になったことは確かだろう。本件一団地認定処分の区域は開発区域に基づいているため、開発区域の取り方に誤りがあれば、開発行為許可処分および開発行為変更許可処分に判断の誤りがあったことになり、同処分は取り消されなければならない。
その土地は大雨の際に地表を流れる雨水の通り道になっており、隣接地の寺社の古い擁壁は雨水や土砂に押されて擁壁の石積みがずれており、本件開発行為によってさらに危険にさらされる土地である。本来、この土地は開発区域と連続している斜面地であるから、開発区域に含めて一体的に安全な措置を講じるべきである。
文京区の「『都市計画法』の規定に基づく開発行為の許可に関する審査基準」の1-1-3の(1)では、「市街化区域内において、次の場合の土地は原則として開発区域に含めるものとする」と規定され、@として「開発申請区域内における土地所有者又は申請者が、申請区域に連たんして所有している土地(隣地が土地の登記事項証明書上同一所有者の場合)」が挙げられている。文京区の注によると、「連たんする土地」とは「申請地に接する土地をいう。道路、河川等により分断されている土地は連たんする土地とは見なさない。又共有地も連たんする土地とは見なさない」とのことである。本件計画地の南東の開発区域および開発区域外の土地は大成建設の所有であったが、平成20年3月に大成建設は当該土地を積水ハウスに売却したので、申請区域に連たんして所有している隣地と申請区域は土地の登記事項証明書上同一所有者になった。それゆえに当該開発区域外の土地は開発区域に含められなければならない。
さらに同審査基準の1-1-3の(2)では、「隣接者の協力を得て擁壁等の構造物を設置する場合は、その構造物の範囲までを開発区域とすること」と規定されているが、隣接者の寺社3者は平成19年末ごろから大成建設および明建と擁壁設置の協議を行っている。明建は積水ハウスの代わりに事業主の代表としてあらゆる協議に常に出席し、積水ハウスの代理も兼ねている。擁壁を開発区域から当該土地の周囲を巡って設置する方向で約束を交わしているので、擁壁が設置されれば、隣接地境界付近まで開発区域にされなければならない。この点でも開発行為許可処分および開発行為変更許可処分には判断の誤りがあり、同処分は取り消されなければならない。開発区域の取り方について開発行為許可処分および開発行為変更許可処分に判断の誤りがある場合、前記のとおり、接道条件を満たしえないので、建築基準法第86条第1項の規定に基づく認定処分も瑕疵を帯びることになり、同処分も取り消されなければならない。
また、反論書(1)のAの(2)の通り、本件の場合、本来は第1種低層住居専用地域に建築不可能な面積の駐車場棟の建築が可能になっているので、良好な市街地環境の確保に寄与しているとは考えられない。
A住宅金融普及協会への反論-2
(1) 建築基準法第77条の20第5号の基準不適合について
住宅金融普及協会は、本件建築物の工事施工者である大成建設の出身の理事について、非常勤である当該理事には確認業務に関する決裁の権限はないと弁明するが、当該理事が本件処分に関与していたかどうかについて一言も言及していない。もし関与していたのであれば、本件処分に関する確認検査の業務の公正な実施に疑義が残るので、関与の有無を説明されたい。
(2) 建築基準法第22条及び63条違反について
住宅金融普及協会の弁明は、「耐火性能を損なわないような配慮」に言及されているが、「飛火防止」には言及されていない。飛火防止の具体的対策についても説明されたい。18の(1)の通り、目白坂は消防車の通行が困難であるので、低層棟の火災の際に消防車の到着が遅れれば、周辺への延焼の危険性が高まる。よって、飛火防止の対策は必要である。
(3) 高層棟の地盤面の取り方(ドライエリア及び切土関係)の誤りと日影規制違反について
本件建築物の高層棟の南側には、切土によって,奥行き約2〜4m、幅約60m、深さ約8〜13mのドライエリアが設けられ、また、西側には奥行き約2〜6m、幅約21m、深さ約0〜13mのドライエリアが設けられ、窓先空地および避難通路を兼ねている。ドライエリアとは、地下室を持つ建築物の外壁を囲むように掘り下げられた空間のことで、「空掘り」ともいう。ドライエリアを設ける目的は、主に地下室の環境の改善であり、採光・防湿・通風の確保・閉塞感などの解消・避難経路の確保などである。本件高層棟の場合、B2階では奥行き約2mのバルコニーと奥行き4mの窓先空地の間に奥行き約2mの空地があるため、実に奥行き約6mものドライエリアになっている。
地盤面に関しては建築基準法施行令第2条第2項で「地盤面とは、建築物が周囲の地面と接する位置の平均の高さにおける水平面」と規定されているが、本件建築物の高層棟に関しては、ドライエリアの外壁の外側が地面と接する位置が「周囲の地面と接する位置」とされ、その位置に地盤面が設定されている。日本建築主事会議・基準総則研究会の「高さ・階数の算定方法・同解説」では、「斜面地や高低差がある敷地に大規模な擁壁を設けて土地を造成し、からぼりを設けた場合、建築物が実際に接する地表面の位置を『周囲の地面と接する位置』とする」とされている。
本来、ドライエリアの底部の位置を高層棟が「周囲の地面と接する位置」とすべきであるにもかかわらず、ドライエリアの外壁の外側が地面と接する位置を「周囲の地面と接する位置」として地盤面を算定しているのは誤りである。また、ドライエリアの奥行き約6mというのは、ドライエリアとして許容される本体建築物との一体性判断の限界と想定できる奥行き2mを大きく超えている。高層棟領域2〜5はすべてドライエリアに面しているので、ドライエリアの底部が地面に接する位置で地盤面を算定し直すと、約4.2mの高さの北西角に接している高層棟領域2の地盤面については、北側線分の東から約4分の3までの高さ0m〜3mの領域(高層棟領域2の約16分の15の面積)と北側線分の西から約4分の1までの高さ3m〜4.2mの領域(高層棟領域2の約16分の1の面積)に平均地盤面が設定され、前者の地盤面の高さは概算で約1.57m、後者の地盤面の高さは概算で約3.44mになり、約2.1m〜4.2mの高さの北西斜面に接している高層棟領域3の地盤面については、北側線分の東から約4分の3までの高さ0m〜3mの領域と北側線分の西から約4分の1までの高さ3m〜4.2mの領域に平均地盤面が設定され、前者の地盤面の高さは概算で約1.27m、後者の地盤面の高さは概算で約3.31mになり、約0m〜2.1mの高さの北西斜面に接している高層棟領域4の地盤面の高さは概算で約0.55mになり、北西斜面に接していない高層棟領域5の地盤面の高さは概算で約0mになる。高層棟領域2の地盤面の高さは4.85mから概算で領域別でそれぞれ約3.28mほどと約1.41mほど下がることになる。高層棟領域3の地盤面は7.89mから領域別でそれぞれ約6.62mほどと約4.58mほど下がることになる。高層棟領域4の地盤面は10.44mから概算で約9.89mほど下がることになる。高層棟領域5の地盤面は12.72mから概算で約12.72mほど下がることになる。
また、本件建築物の日影規制は平均地盤面を基準として判定されているところ、平均地盤面が下がれば当然日影の影響も大きくなり、日影規制に違反する可能性があることを推測することができる。
(4) 建築基準法第34条違反について
前項で述べたとおり、高層棟領域2の地盤面については,北側線分の東から約4分の3までの高さ0m〜3mの領域で約3.28mほど下がり、北側線分の西から約4分の1までの高さ3m〜4.2mの領域で約1.41mほど下がるので、建築物の高さは31mを超えることになり、非常用エレベーターのない本件建築物の高層棟は建築基準法第34条に違反している。同様に領域3〜5の地盤面からの高層棟の高さも31mを超えることになり、同法同条に違反している。
(5) 建築基準法第48条違反について
反論書(1)の@の(5)の通り。
(6) 建築基準法第55条適用に関する疑義と同法第86条違反について
反論書(1)の@の(6)の通り。
(7) 建築基準法91条違反について
平成22年2月22日付審査請求書補正書の通り。
(8) 建築基準法施行令第126条の6違反について
同施行令同条の6第2号では「道又は道に通ずる幅員四メートル以上の通路その他の空地に面する各階の外壁面に窓その他の開口部(…)を当該壁面の長さ十メートル以内ごとに設けている場合」と規定されているので、「各住戸に侵入可能なバルコニーを設けること」という旧建設省住宅局建築指導課長の通達による代替措置はその規定を踏まえたものであり、「道又は道に通ずる幅員四メートル以上の通路その他の空地に面する」ことが前提になる。しかし、本件建築物の低層棟の3階及び4階のバルコニーから避難梯子で降下可能な低層棟1階のバルコニーは幅員4mの窓先空地に面しているものの、一部は幅員2mの避難通路に面しており、「道に通ずる幅員4m以上の通路その他の空地に面する」という同施行令同条の6第2号の条件を満たしていないので、違法である。
(9) 東京都建築安全条例第11条違反について
前(3)で述べたとおり、高層棟領域2の地盤面については,北側線分の東から約4分の3までの高さ0m〜3mの領域で約3.28mほど下がり、北側線分の西から約4分の1までの高さ3m〜4.2mの領域で約1.41mほど下がるので、建築物の高さは31mを超えることになり、特別避難階段の設置が必要になり、直通階段がブロックごとに一つだけしか設置されていない本件建築物の高層棟は東京都建築安全条例第11条に違反している。同様に領域3〜5の地盤面からの高層棟の高さも31mを超えることになり、同条例同条に違反している。
(10) 東京都建築安全条例第19条違反について
住宅金融普及協会は平成21年3月31日の説明会で提出された図面は建築確認申請図書ではないので関知しないと弁明するが、建築確認申請日は平成21年3月31日であるから、説明会の図面と建築確認申請日の申請図書はまったく同時期の図面である。同時期に当該部分の避難通路を駐車スペースとして使用する計画があったことは明らかであり、建築確認申請図書に「駐車スペース」と書かれていないことは、避難通路を駐車スペースとして使用しないことの証明にはならない。
(11) 東京都高齢者・身体障害者等が利用しやすい建築物の整備に関する条例第11条違反について
住宅金融普及協会が提出した図面では、駐車場棟の身障者用駐車場と低層棟を連絡するエレベーター経由の特定経路がマスキングされており、特定経路が整備の基準に適合しているかを判断することができない。特定経路が、同条例11条3号のイの「廊下の幅は120cm以上とすること」、同ロの「50m以内ごとに車いすの転回に支障がない場所を設けること」、同ハの「戸を設ける場合には、自動的に開閉する構造その他の車いす使用者が容易に開閉して通過できる構造とし、かつ、その前後に高低差がないこと」、同5号のロの「かご及び昇降路の出入口の幅は、80cm以上とすること」、同ハ「かごの奥行きは、115cm以上とすること」、同ニの「乗降ロビーは、高低差がないものとし、その幅及び奥行きは、150cm以上とすること」、同ホの「かご内及び乗降ロビーには、車いす使用者が円滑に利用することができる位置に制御装置を設けること」、同ヘの「かご内に、かごが停止する予定の階及びかごの現在位置を表示する装置を設けること」、同トの「乗降ロビーに、到着するかごの昇降方向を表示する装置を設けること」の基準に適合していることを図面で証明されたい。
(12) B2階とB1階の住戸の採光に関する建築基準法第28条違反の疑義について
本件高層棟の南側では、B1階にB2階の居室の吹き抜け部分を設けることによって採光の対策を行っているが、それによって本来B1階の窓であるはずの部分が壁になるため、B2階のみならずB1階の居室の採光にも支障が生じている。よって、B2階とB1階の住戸が建築基準法第28条の採光規制をクリアしているかどうか、疑義がある。
(13) 低層棟の地盤面の取り方(ドライエリア及び切土関係)の誤りと建築物の高さ制限等の違法について
本件建築物の低層棟の東南側の1階住戸前には,切土によって,奥行き約2〜4m、幅約61m、深さ約1mのドライエリアが設けられ、西北側の1階住戸前には切土によって、奥行き2〜4m、幅約31m、深さ約1mのドライエリアが設けられ、窓先空地および避難通路を兼ねている。ドライエリアを設ける目的は、主に地下室の環境の改善であり、採光・防湿・通風の確保・閉塞感などの解消・避難経路の確保などである。本件建築物の場合、通常の用法を越える巨大なドライエリアを地下住戸でない1階住戸に設ける必要性も合理性もない。
また、低層棟は平地に建設されるのに,窓先空地および避難通路をわざわざドライエリアに設けなければならない理由も見当たらない。ドライエリアを設ける目的は、地盤面のかさ上げによって12mの絶対高さ制限をクリアする点にあることは明白である。地盤面に関しては建築基準法施行令第2条第2項で「地盤面とは建築物が周囲の地面と接する位置の平均の高さにおける水平面」と規定されているが、本件建築物の低層棟に関してはドライエリアの外壁の外側が地面と接する位置が「周囲の地面と接する位置」とされ、その位置に地盤面が設定されている。本来、ドライエリアの底部の位置を低層棟が「周囲の地面と接する位置」とすべきであるにもかかわらず、ドライエリアの外壁の外側が地面と接する位置を「周囲の地面と接する位置」として地盤面を算定しているのは誤りである。また、ドライエリアの奥行き約4mというのはドライエリアとして許容される本体建築物との一体性判断の限界と想定できる奥行き2mを大きく超えている。
(14) 低層棟の地盤面の取り方(斜面地および盛土関係)の誤りについて
低層棟は斜面地ではなく平地に建設されるのだから、本来なら平均地盤面の領域を3つも持つはずがない。低層棟が地盤面を3つも持つのは、低層棟の住民が自動車使用の目的で設備棟に行くための連絡用エレベーターのエレベーター・シャフトとエレベーターから低層棟への連絡通路が、盛土による低層棟東側の斜面地に高さ6m以上接するという理由から、平均地盤面が3mごとに3つ設定されたからである。エレベーター・シャフト付近はもともと3mくらいずつの複数の段差のある崖地であるが、本件計画では盛土によって段差が埋められて斜面地が造成される。
しかし、この盛土による斜面地の造成には必要性も合理性もない。盛土が行われなければ、斜面地の平均地盤面も設定されない。盛土によって斜面地を造成し、低層棟と連絡通路で連結されているエレベーター・シャフトをその斜面地に埋め込むことによって、低層棟が斜面地に接しているように扱い、低層棟に平均地盤面を適用することは通常の用法を越えている。よって、低層棟の地盤面の取り方は誤っている。
(15) 設備棟の地盤面の取り方(斜面地および盛土関係)の誤りについて
設備棟は西側の盛土による斜面地に高さ6m以上接するという理由から、平均地盤面が3mごとに3つ設定されている。設備棟西側は段差5m以上の崖地であり、盛土によって斜面地が造成される。しかし、この盛土による斜面地の造成には必要性も合理性もない。盛土が行われなければ、斜面地の平均地盤面も設定されない。よって、設備棟の地盤面の取り方は誤っている。
(16) 文京区による開発行為許可処分および開発行為変更許可処分における判断の誤りに基づく本件建築確認処分の瑕疵について
建築計画概要書の「建築物及びその敷地に関する事項」(第二面)の「14. 許可・認定等」には都市計画法第29条第1項の規定による許可として平成20年9月1日付の開発行為許可(第19-5-2号)および都市計画法第35条の2第1項の規定による許可として平成20年11月28日付の開発行為変更許可(第19-5-4号)が記載されているので、本件建築確認処分はこれらの許可を前提としている。
建築基準法第6条第1項では「建築主は、…建築物を建築しようとする場合…、当該工事に着手する前に、その計画が建築基準関係規定(この法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定(以下「建築基準法令の規定」という。)その他建築物の敷地、構造又は建築設備に関する法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定で政令で定めるものをいう。以下同じ。)に適合するものであることについて、確認の申請書を提出して建築主事の確認を受け、確認済証の交付を受けなければならない」と規定されており、建築基準法施行令第9条で建築基準関係規定として都市計画法第29条第1項の規定が掲げられている。そして都市計画法第29条第1項では「都市計画区域又は準都市計画区域内において開発行為をしようとする者は、あらかじめ、国土交通省令で定めるところにより、都道府県知事(地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十九第一項の指定都市、同法第二百五十二条の二十二第一項の中核市又は同法第二百五十二条の二十六の三第一項の特例市(以下「指定都市等」という。)の区域内にあつては、当該指定都市等の長。以下この節において同じ。)の許可を受けなければならない。」と規定されている。
つまり、本件の場合文京区による開発行為許可処分が建築基準関係規定であり、建築確認処分の前提となる。開発行為許可処分の判断の誤りについて処分庁は審査せずに建築確認処分を行うが、開発行為に違法があり、開発行為許可処分に判断の誤りのある場合、建築確認処分は瑕疵を帯びることになるので、建築確認処分は取り消されなければならない。
本件の開発行為および開発行為変更には主として次のような違法があるので,本件建築確認処分は取り消されなければならない。
- 道路の配置および接道要件における不備(都市計画法第33条第1項第1項違反)
低層棟の避難通路は目白坂に接しているが、目白坂は消防車の通行が困難である。従って、本件計画は「災害の防止上」支障がないように道路が適当に配置されておらず、相当規模の道路に接続していない。低層棟の火災の際に消防車の到着が遅れれば、周辺への延焼の危険性が高まる。 - 排水施設の不備(都市計画法第33条第1項第3号違反)
本件計画は斜面地の大規模な緑地を伐採し、雨水の浸透する土と樹木を取り除き、コンクリートの部分を増やすため、大量の雨水が排水施設に吸収されずに表面を流れる危険性があり、排水能力が適切ではないので、「周辺の地域に溢水等の被害」が生じる恐れがある。 - 崖崩れおよび出水の危険性(都市計画法第33条第1項第7号違反)
本件計画地南東側では開発区域から開発区域外所有地にかけて連続する危険な斜面地があり、開発区域の崖崩れや出水は開発区域外所有地と連動するため、開発区域外所有地の隣接地に被害を与える危険性があるが、この箇所に擁壁等による総合的な「安全上必要な措置」が講じられていない。開発区域と連続する開発区域外所有地も開発区域に含め、一体的に「安全上必要な措置」を講じるべきである。 - 地下水に対する配慮のなさ(都市計画法施行令第28条第7号違反)
本件計画地周辺は昔から地下水の豊富な地域であり、少し地下を掘削するとすぐに地下水が流出する地域である。大規模な切土を行う本件計画は、地下水の流出や地下水の流れの変化を引き起こす恐れがあるのにもかかわらず、地下水の適切な排水施設を設置する形跡がない。
(17) 東京都による建築基準法第55条第2項の規定に基づく認定処分における判断の誤りに基づく本件建築確認処分の瑕疵について
前項と同じ目的、理由によるため、省略。
(18) 東京都による建築基準法第86条第1項の規定に基づく認定処分における判断の誤りに基づく本件建築確認処分の瑕疵について
前二項と同じ目的、理由によるため、省略。
(19) 建築確認申請図書の隣地境界線の誤りについて
前項で言及した開発区域外の事業主所有地との関連で、本建築物の建築確認に使用された地図は隣地境界線において誤った記載がある。建築確認申請図書の配置図や平面図の設備棟南側の「隣地境界線」は「開発区域境界線」であり、設備棟南側の事業主所有地を挟んで本当の隣地境界線がある。建築確認申請図書の誤った記載に基づく処分庁の審査には問題があり、本件建築確認処分は取消に値する。