事件の概要
Sponsors
東京都建築審査会の記録
審査請求人の反論(1)
@東京都に対する反論-1
(1)本案前の弁明について
処分庁は審査請求人らが、先に出した東京都開発審査会に対する本計画の審査請求、「21東開審第9号事件」において建築基準法55条認定処分および同86条認定処分について審査請求したことを指して、審査請求人らが平成21年4月8日に同認定を知りえた、と主張するが(実際には平成21年4月12日)、東京都開発審査会は同審査会が平成21年10月27日に下した裁決書において、この請求に対してなんら審査、審問、調査、をぜず結論ち出していないことから本件は事実上法的時効停止状態にある。審査請求人はこの処分について平成22年2月19日、東京都建築審査会事務局に相談したところ、本件処分は東京都建築審査会に審査請求するのが妥当であるという助言を事務局より受け、それが故に補正書を2月22日付けで提出したものである。したがって、建築基準法55条認定処分および同86条認定処分について請求人らが処分のあったことを知った日が平成21年4月8日であるとし、審査請求期間を徒過しているので、本件審査請求は却下されるべきという処分庁の主張は根拠がない。
知事等の認定の判断に誤りがある場合には、当該建築計画は建築基準法の規定に適合しないことは明らかであり、知事等の判断を前提とする建築確認処分も暇庇を帯びることとなると言わざるを得ない。従って、建築基準法が規定する認定処分への適合性に関する審査が何らされないまま、当該建築計画に係る建築物の建築工事が施工されようとしている場合において、認定処分該当性の点に関する知事等の判断の誤りは、審査請求における当該建築確認処分の取消事由となると考えるべきであり、建築審査会による審査の対象に十分なりうる。
また、建築主は現在においてもなお建築予定地に建築確認済標識を掲示しておらず、審査請求人が、計画物件に対する建築確認が下りている事実を知ったのは平成21年12月22日である。
(2)本案の弁明について
(a) 審査請求書の理由(2) 6.について
建築基準法の第1条では「この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、よって公共の福祉の増進に資することを目的とする」と定められており、もし建築主の最大の利益を実現するために「最低の基準Jを厳格に守らない認定処分が行われるとすれば、同法の趣旨を逸脱することになると言わざるを得ない。また、同法第1条の趣旨は、「最低の基準」を目指すことではなく、「最低の基準」以上を目指すことにあると考えられるので、認定処分においても「国民の生命、健康及び財産の保護を図り、ちって公共の福祉の増進に資することJに十分配慮し、「最低の基準」以上を目指すべきである。
本計画建築物の第一種低層住居専用地域の敷地は、同法第55条第1項に基づき、都市計画で建築物の高さが10m!こ定められているが、処分庁は、同条第2項における「前項の都市計画において建築物の高さの限度が十メートルと定められた第一種低層住居専用地域又は第二種低層住居専用地域内においては、その敷地内に政令で定める空地を有し、かつ、その敷地面積が政令で定める規模以上である建築物であって、特定行政庁が低層住宅に係る良好な住居の環境を害するおそれがないと認めるものの高さの限度は、同項の規定にかかわらず、十二メートルとする」という規定に基づき、東京都の「第一種低層住居専用地域文は第二種低層住居専用地域内における建築物の高さの緩和認定基準」に照らし、本計画建築物は同条および認定基準に適合していると弁明する。
しかし、本計画建築物がいかなる点で認定基準に適合しているのか具体的な説明がなされていない。たとえば、「外壁の後退距離の制限」として「計画建築物の外壁又はこれに代わる柱の面から敷地境界線までの距離(後退距離)は4m以上とする」と規定されているが、本計画建築物の場合、西側や東側の敷地境界線付近で規定に適合していない箇所が見られる。また、「方位別斜線制限Jがクリアできているかについてち疑義が残る。処分庁はこれらの点について具体的に証拠を挙げて適合の判断に不備がないことを証明されたい。
処分庁は、同法第55条に基づいて適用される第一種低層住居専用地域文は第二種低層住居専用地域内における「絶対高さ制限」と、同法第56条に基づいて適用されるそれ以外の用途地域における「隣地高さ制限Jを区別し、同法第55条第2項に基づく「絶対高さ制限Jの緩和と、同法第56条第7項の規定に基づく「隣地高さ制限Jの不適用とは関係ないと弁明したので、審査請求人らは、低層棟の高さが12mになる原因が、同法第55条第21頁の規定に基づく処分庁による認定処分だけにあることを確認できた。審査請求人らは、都市計画に基づく10mの絶対高さ制限が緩和された原因として、同法第86条に基づく一団地認定や、同法第56条第7項に基づく天空率の規定(斜線制限の適用除外)も疑っていたのであるが、今後は処分庁による認定処分に焦点を絞ることができる。
処分庁は、周辺地域で緩和が認められた前例がなくてち、同法55条第2項に定められた空地および敷地の規模要件に適合すれば緩和が可能だと弁明する。ちなみに空地の規模については建築基準法施行令第130条の10第1項で「法第五十五条第二項の規定により政令で定める空地は、法第五十三条の規定により建ペい率の最高限度が定められている場合においては、当該空地の面積の敷地面積に対する割合がーから当該最高限度を減じた数値に十分の一を加えた数値以上であるちのとし、同条の規定により建ぺい率の最高限度が定められていない場合においては、当該空地の面積の敷地面積に対する割合が十分の一以上であるものとする」と定められ、敷地の規模については同第2項で「法第五十五条第二項の規定により政令で定める規模は、千五百平方メートルとする。ただし、特定行政庁は、街区の形状、宅地の規模その他土地の状況によりこれによることが不適当であると認める場合においては、規則で、七百五十平方メートル以上千五百平方メートル未満の範囲内で、その規模を別に定めることができるJと定められている。確かに本件計画はそれらの規模要件を満たしているようであるが、審査請求人らが周辺地域で緩和が認められた前例がないと主張したのは、本計画の場合は近隣住民への理解を得るべく十分な説明が行われておらず、一方的に緩和が認定されたと感じているからである。都心で貴重な緑が残されている閑静な住宅地で、近隣住民の十分な理解を得ずに一方的に緩和を認定することは、建築基準法第1条の趣旨を十分に反映した処分とは言えない。たとえば世田谷区は高さの緩和に当たっては緩和認定基準で次のように近隣住民への説明を行うよう指導している。
- 高さの緩和を受ける場合は、基準を参考に敷地の周囲に対して十分な配慮を行うこと。
- 認定に当たっては、近隣住民の理解が重要な要素になるので、一般計画の場合と認定基準に基づき計画した場合の比較を示すなど、十分な説明を行うこと
- 説明範囲は当該建築物の敷地境界線から、その高さの2信の範囲内に居住するもの
(b) 審査請求書の理由(2)7.について
処分庁は「建築基準法第86条第1項、同条第21頁及び第86条の2第1項の規定に基づく認定基準」に基づき、本計画建築物は敷地面積に対する接道に関する条件にち適合していると弁明するが、どのように適合しているかを具体的に説明されたい。たとえば、区域面積が3,000ni以上の場合、「区域は、その外周のおおむね4分の1以上を幅員6メートル以上の道路(幅員6メートル未満の道路に接する敷地の部分を道路状とし、当該幅と道路幅員の合計が6メートル以上となるものを含む。)に接することjと規定されているが、本件計画における区域の外周の4分の1以上が道路に獲しているかどうか疑わしいので、具体的な数字を挙げて適合性を証明されたい。また、提供公園の外周ち区域に含まれるかどうかも説明されたい。
また、敷地全体としては第1種低層住居専用地域が第2種住居地域よりも広いので、もし一団地認定の結果として「区域」が1つになれば、「区域」の用途地域は、敷地の過半を占める第1種低層住居専用地域の制限が適用され、建築主には不利になる。しかし実際には「区域」を2つに分けたために、第2種住居地域が第1種低層住居専用地域の一部といっしょになり、敷地の過半を占める第2種住居地域の面積が実質的には拡大されて「区域1」となり、第1種低層住居専用地域の面積が縮小されて「区域II」 となり、本来は第1種低層住居専用地域に建築不可能な1,800平方メートル以上の機械式駐車場の設備棟の建築が可能になった。これは実質的には建築主に有利な用途地域の変更であり、環境上の支障がある。本件計画の一団地認定が,東京都の「建築基準法第86条第1項、同条第2項及び第86条の2第1項の規定に基づく認定基準Jの運用方針に記載されている「良好な市街地環境の確保に寄与し、適切な土地の有効利用に資する建築計画に対して本制度の積極的な活用を図るため」という目的に合致しているとは思えない。なぜ処分庁は、建築主に有利な方向で「区域」を2つに分けた計画を認定したのか説明されたい。
平成11年4月28日の建設省住宅局長の通達「建築基準法の一部を改正する法律の一部の施行について」では、「市街地の環境を確保しつつ、建築物による土地の有効利用を実現することが喫緊の課題になっていること」が踏まえられており、同通達の別紙4「一団地の総合的設計制度及び連担建築物設計制度の運用指針」では、「対象区域が、容積率制限又は建ぺい率制限が異なる二以上の区域にわたる場合には、一敷地の場合と同様に加重平均を行うこととされているが、制限の厳しい区域に建築物をまとめて建築する場合については、都市計画上の位置付けが異なる地域にわたる計画になることから、市街地の環境上支障がない計画であることに留意して判断すること」とされているが、この通達の趣旨は一団地認定処分に十分反映されるべきであり、環境上支障のある認定処分は取り消しに値する。
A住宅金融普及協会への反論-1
(1) 建築基準法第77条の20第5号の基準不適合
処分庁は「建築基準法第77条の20に規定されているとおり、役員、職員の構成が、確認検査の業務の公正な実施に支障を及ぼすおそれがないちのであるとして、確認検査機関の指定を受けている。確認検査を実施するに当たり、法適合性について、公正かつ的確な審査を行ってjいると弁明しているが、このような証拠のない弁明では、大成建設出身者が理事に就任している確認検査機関が、大成建設が工事を担当する建築計画の確認検査業務を公正に実施できることを何ら証明したことにはならず、同法第77条の20第5号の基準に抵触しているという疑念は払拭されない。同法77条の35第2項第4号が適用されると指定が取り消される可能性もあるのであるから、大成建設出身理事が本計画建築物の確認検査業務の公正な実施に支障を及ぼすおそれがないことを処分庁は具体的に証明されたい。
(2) 建築基準法第22条及び63条違反
処分庁の主張には「植物や土等については、建築物の一部として扱わないものとするが、植物等の性質により、防火上支障が生じることち考えられるので、飛火防止や、耐火性能等を損なわないような配慮を行うことが望まれるJとされているが、本件計画の場合、屋上から周辺への飛火防止や耐火性能維持にどのような配慮がなされているのかを処分庁は具体的に説明されたい。草木用の培養土には再生紙を使ったものもあり、乾燥による延焼の危険性の他、高温または落雷等など飛び火以外の発火の可能性も否定できない。
(3) 建築基準法第29条違反
処分庁は、地階住戸に建築基準法施行令第22条の2第1号の口と八に基づく適切な換気設備と湿度調整設備が設けられているかを具体的に説明されたい。
(4) 建築基準法第34条違反
もし盛土によって地盤面がかさ上げされていれば、もともとの地盤面はもっと低いはずであり、高さ31mを超えている部分が屋内的用途となり、非常用エレベーターの設置が必要になっていたであろう。処分庁は、すべての断面図を提出の上、盛土による地盤面の操作の有無について説明されたい。
(5) 建築基準法第91条違反
平成22年2月22日付審査請求書補正書(2) 8. の通り。
(6) 建築基準法施行令第126条の6違反
処分庁は建築基準法施行令第126条の6の但書で緩和されたと主張するが、ならば具体的にどの空地と通路がどのように緩和措置を受けたと考えているのか証明するべきである。処分庁が提出した図面を見るかぎり、緩和措置対象の施設は見受けられない。また、処分庁が証拠として提出した昭和46年12月3日付けの通達は39年前の旧建設省の一課長の個人見解であり、この通達以降建築基準法は7回にわたって改正されているため、すでに実効性はないと考えるべきである。
よって処分庁の主張には根拠がない。
(7) 東京都建築安全条例第11条違反
もし盛土によって地盤面がかさ上げされていれば、もともとの地盤面はもっと低いはずであり、高さ31mを超えている部分が屋内的用途となり、特別避難階段の設置が必要になっていたであろう。処分庁は、すべての断面図を提出の上、盛土による地盤面の操作の有無について説明されたい。
(8) 東京都建築安全条例第四条違反
平成21年3月31日の説明会で提出された図面の低層棟1階平面図によると、本件計画の南側の目白坂に接続する車寄せに連なる避難通路が駐車スペースとされている。避難通路を駐車スペースとして使用するのは、窓先空地から道路までを幅員2m以上の屋外通路で避難上有効に連絡させなければならないと定めた東京都建築安全条例第19条第2項に違反している。
(9) 東京都高齢者、身体障害者等が利用しやすい建築物の整備に関する条例第11条違反
処分庁は、「東京都福祉のまちづくり条例」は建築基準関係規定ではないので、審査対象にならないと弁明するが、同条例とほぼ同じ内容を定めた「東京都高齢者、身体障害者等が利用しやすい建築物の整備に関する条例」第11条の「特定経路」の規定に適合していることを証明されたい。なお、同条例は建築基準関係規定である。
(10) 容積率についての疑義
処分庁は「地階の容積率の緩和部分は、「設備棟」の地下1階に計画されている共同住宅の用途に供する受水槽等の機械室部分であり、算定は適切に行われている」と弁明するが、面積算定図の各領域は数字、アルファベット、片仮名、ひらがな等の記号で表記されているため、具体的にどの部屋が容積率対象部分であり、容積率対象外部分であるかが判然としないので、疑義が解消されない。容積率対象部分と容積率対象外部分の内訳を記号ではなく、管理室、機械室、ポンプ室等、部屋の用途を示す具体的な名称で説明されたい。
高層棟B1階の平面図によると、バルコニーを挟んで3住戸で南側に突出した部分が認められるが、黒く塗りつぶされているので、用途は分らない。しかし、平成21年3月31日の説明会で提出された図面の高層棟B1階平面図によると、上記の突出部分は住戸の専有部分の床のように見える。住戸の専有部分の床は容積率対象部分である。ところが、高層棟B1階の面積算定図には上記の突出部分は記載されておらず、吹き抜けになっている。吹き抜けはちちろん容積率に算入されない。ひょっとするとB2階の植栽が上方に伸びている部分なのかちしれない。しかし、そうだとすると、3月31日以後に設計が変更されたことになるが、建築計画概要書によると延床面積に変更はない。立面図1の高層棟南側立面図によると、B2階とB1階によろい戸付きの窓のようなものが認められ、高層棟西側立面図によるとB2階から2階まで突出部分が連続しているのが認められる。
(11) 天空率、道路斜線制限、北側斜線制限についての疑義
建築計画概要書の第二面の13によると、建築基準法第56条第7項の規程による特例の適用があり、隣地高さ制限が適用されていない。同法第56条第7頁は、天空率による斜線制限の適用除外を規定しているので、本計画建築物に天空率が採用されているはずであるが、どの建築物で採用されているのかを処分庁は説明されたい。また、天空率審査用図書一式を提出の上、天空率の計算が適切に行なわれているかを説明されたい。合わぜて日影図を提出の上、天空率の採用によって周辺のどのエリアが影響を受けるのかを説明されたい。同様に、道路斜線制限と北側斜線制限が適切に適用されていることを関連図面によって説明されたい。